コラム(不定期更新) 怖いネカフェの話

♯72 Yさんの恋

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数年前にバイト先の先輩から聞いた話が衝撃的で未だに忘れられないので紹介する。

 

まず先輩の紹介。イニシャルはY。

長身痩せ型で理屈屋。

 

話は延々長いが決して面白くない。

暗いわけではないが、明るいオーラは放っていない。数分話すと変な人だと気付く。

 

「休みの日は何してるんですか?」という問いに「ジュースを飲んでる」と答える。こちらが言葉に詰まると「俺、小野さんが思ってるよりジュース飲むから」と真剣な顔で被せてくる。不思議だ。

 

そんなYさんが話してくれた恋の話。

 

高校を卒業したYさん。当時Yさんは同級生の女の子に恋をしていた。好きですの4文字が言えずに在学中もずっと秘めたる淡い恋。

 

思いを告げることなく卒業し、再会する機会も与えられないまま悶々とした半年が流れる。

 

そんなある日。

その女の子から「話があるから会いたい」とメールが届く。

 

「マジかよ!」と天に昇る心地のYさん。

何の話だろう、もしかしたら両思いだったのかも!

溢れる妄想は留まることを知らない。

 

プレゼント(ハンカチ)を購入し、喜び勇んでスキップ交じりに呼ばれた喫茶店へ。

迎え入れる笑顔の彼女。

最初はガチガチに緊張していたYさんも、次第にリラックスして思い出話を二つ三つ。

 

和やかな雰囲気の中、彼女がおもむろに本題へ。

 

「Yくんは今幸せ?」

「…え?」

 

お察ししたであろう。

つまりそういうことである。

 

「Yくんが幸せになれる方法がある」

「どうしてもYくんに話したかった」

 

カタログを片手に熱心に入信を迫る彼女の笑顔は自然とは程遠いものだった。

 

ここでYさんは全てを悟る。

 

両思いなんかじゃなかった。

ポケットの中には行き場を無くしたプレゼント。

 

もしかしたら付き合えるかも。

浮かれてた数分前までの自分が情けなくて切なくて涙が出てくる。

 

彼女が悪びれることなくトドメを刺す。

 

「Yくん私のこと好きでしょ?入信してよ」

 

俺は入信すべきなのか、この気持ちは何なのか。

愛と裏切りと情熱で脳みそがキャパオーバーを起こし、パニック状態になったYさんは思わずトイレへ逃げ込む。泣きながら父親に電話。

 

「父さん、助けてくれ!」

「わかった。とにかく逃げろ!」

 

緊迫した場面で息子がパニックになるのを昔からよく知っていた父親は冷静にその場から離れることを指示。

 

恐ろしさのあまり彼女の前に戻る勇気を失ったYさんはそのままトイレの窓から無理矢理脱出。

号泣しながら全速力で帰宅。ポケットに入っていたプレゼントをぶっきらぼうに母親に渡す。

 

突然の息子からのプレゼントに母親は涙を流して喜ぶ。

それを見たYさんも家族の温かさに再び号泣したそうだ。

 

滑稽で壮大な愛の話である。

Yさんに幸あれ。

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