西武新宿駅をご存知だろうか?
その名通り新宿駅から西へ、埼玉の川越方面に向けて出発する「西武新宿線」の始発駅である。
眠らない街『歌舞伎町』の近くに存在している。
新宿にあるので決して小さい駅ではないが、ご存知のように新宿の主な電車はJRを筆頭に皆近くにまとまっている。鉄道会社を変える乗り換え時に若干歩くケースがあるが、それでも同じ場所にそれぞれの乗口があるという印象だ。
しかし西武新宿は新宿駅から離れている。
名前から分かるように「新宿駅」ではない。
JRから地上を出て進むのであれば、東口のアルタ前の信号を渡り、そのまま歌舞伎町へ進み左側。
約5分くらい(信号によってはもっと)移動にかかる。
アプリの乗り換え案内などでは普通に「西武新宿→(徒歩移動)→新宿」の乗り換えが表示されるが、何も知らない人だと最短ルートで行くのは不可能だと感じる。だって違う駅だもの。
この西武新宿駅には少しばかり思い出がある。
学生時代、よく大学の仲間と新宿でお酒を飲んでいた。
ひとしきり楽しんだあとに解散するために皆で新宿駅へ歩く。
そのときにいつも「俺、西武新宿だから…」と歌舞伎町方面へ向かう先輩がいた。
その先輩だけが西武新宿線を使っていたので、皆がJR改札付近でそれぞれ散らばる前に一足先に会から離脱するのだ。
飲み屋を出て駅まで向かう途中、皆でダラダラ歩き「今日という日を振り返るトーク」に参加できないのが心苦しいのか、その先輩はいつも申し訳なさそうに「俺、西武新宿だから…」と苦笑いで消えていった。
毎回そのパターンなのにぼくも学習せずに「あれ?○○さんどこ行くんすか?」と聞いてしまうことがあり、その度に先輩は「俺、西武新宿だから…」とお決まりのパンチラインをかましてきた。何回聞いたか覚えてない。
学生時代、その光景を幾度となく見るたびにぼくは思っていた。
「西武新宿ってどこやねん」
「俺、西武新宿だから…」
「そうなんすね!お疲れ様でしたー!」
と言っておきながら、次の瞬間には「西武新宿ってどこやねん」と毎回思っていた。
西武新宿駅を知らなかったのだ。
これは結構あるあるだと思うのだが、新宿に何度も足を運んでいても自分が使ったことがなければ「西武新宿駅」を知らない人は多い。何度も近くを歩いたことがあったはずなのに初めて駅を認識したときの感想は「こんなところに駅があったんだ!」である。
決して小さくないのに地味な駅、そんな印象を西武新宿駅に感じる。
月日が流れ、不思議なことに現在ぼくは西武新宿線ユーザーになった。
先輩が飲み会終わりに皆と離れてひとり乗っていた電車に乗っている。
かつてのぼくがその存在を認識していなかった電車に毎日乗っているのだ。
人生は何が起こるかわからない。
近年、新宿での飲み会ではいつもこうだ。
店を出てJRへ向かう仲間たちの群れからひとりそっと離れる。
「俺、西武新宿だから…」と申し訳なさそうに、苦笑いをして。