コラム(不定期更新) 怖いネカフェの話

♯60 勝者のスーパー

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以前、「行きつけのスーパーが閉店してしまって悲しい」という内容のコラムを書いた。

 

書いてるうちに自身も悲しくなり後半はややポエムっぽくなってしまったが、当時の思い出を情感たっぷりに封じ込めて、気持ちが薄れた数年後に懐かしく読み返すのが楽しみな、お気に入りの文章である。

 

今回はその続き。

 

お気に入りのスーパーがあろうとなかろうと、人は食べ続けなければならない。

身を引き裂かれるように悲しいことが起きようが、飛び上がるくらいハッピーな出来事があろうが人間は腹が減る。いついかなる時でも腹が減る。滑稽だがそういうものである。

 

食べて、寝て、起きる。

喜怒哀楽など、そのサイクルの中にたまたま入り込んでるだけにすぎない。

 

というわけで新たな住処(スーパー)を求めて近隣を歩いていると、向かいにもスーパーがあったことを思い出した。

 

閉店してしまったスーパーから歩いて5分掛からない。信号ひとつ渡るくらいの距離だ。

とりあえず行ってみるか、と歩を進める。

 

入口から予想以上に物凄い人の数。

 

行きつけだったスーパーはやはり閉店しただけあって、ある程度は閑散としていた。

ぼくは静かな場所が好きなので、そこが好きだった。

 

ところがこのスーパーは賑やかだ。

客の量が違う。ドン・キホーテかよってくらい人がいる。

 

スーパーが変わっても買うものは基本変わらない。おにぎりとパン、それと飲み物。

 

飲料品コーナーに行って度肝を抜かれる。

 

え…?

 

嘘ではない、本当に声が出た。

 

え…?

 

ペットボトルが…安いのである。

 

いつも98円で購入していた飲み物が…70円で売ってる…

しかも特売品じゃない。

 

以前のスーパーでは日によって70円で売ってる飲み物が違うので、ぼくは毎回「その日たまたま安いものを買っていた」。どうしても飲みたいものが安くないときは98円支払う。

それでも安いと思っていた(コンビニでは150円くらいなので)。

 

ところが、その新しく入ったスーパーでは全て、戸棚の端から端まで安いのだ。

ぼくはおにぎりコーナーに走った。

 

あ…あああ…

 

おにぎりも…安い。

 

以前のスーパーの半額だ。空腹を満たす為に買ってるので味なんて正直どうでもいい。シンプルに同じ値段で2個買える。

 

パンも安い。全てが安い。

 

ぼくは思ってしまった。

こんなスーパーが近くにあったら、そりゃあっちは閉店になるわ。

 

そして今まであのスーパーで過ごした時間を思い出しながらも、こんなことを思ってしまった。

 

こっちのがいいじゃん。

 

確かに接客や店内の雰囲気はこれまで通っていたスーパーのが遥かに良い。

 

だがしかし、それとは比べ物にならないくらい安い。

 

人の数が多いのが嫌だけど、安い。

先週までセンチメンタルになっていたのに、もうこのスーパーとの出会いで幸福感を得ている。

 

なんて薄情な人間なんだ、ぼくは。

そうして新たなスーパーに出会った。

 

安いって凄い。

人間をとことん薄情にする。

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