こんにちは、小野哲平です。
意外、というか全く世に知られていない歌舞伎付き人の仕事。
興味ある・知りたい!という方の為にちょっとまとめてみました。
この記事では歌舞伎チラシを通じて付き人の仕事を説明します。
これさえ読めば今後のチラシの見方が全然変わるという内容です。
今回勉強で使うチラシはこちら。
2016年歌舞伎座での成駒屋襲名チラシです。
ぼくは実際にこのとき歌舞伎座で働いていました。
仮に貴方が中村橋之助の付き人だとします。
説明の為にこの記事では橋之助さんを旦那と呼びます。
いいですか?橋之助さんの付き人ですよ?
橋之助さんは旦那ですよ?
はい!ではいきましょう。
朝は何時入りなのか
朝、貴方が歌舞伎座に出勤する時間も旦那によって変わります。
確認するのは超簡単。チラシで名前を確認すればいいのです。
チラシ下部に演目に出演する役者の名前がずらーっと並んでいます。
見つけた!!!!朝一発目だ!!
序幕の踊りに旦那が出演しています。
ということは11時には舞台に立っています。
この踊りは白塗りなので(どういう化粧の役なのかはお弟子さんに確認します)、
逆算してだいたい一時間前には化粧を開始します。
10時に化粧開始。
楽屋入りしてから軽く朝食を食べると考えて旦那は9時半入り。
食事などの買い出しを頼まれるとして9時には仕事が終わっていたい(気持ち的に)。
ここからは人によるのですが、
この場合ではぼくだったら8時半には楽屋にいたいと思います。
それに加えてぼくは朝一番に洗濯機を回したい派なので、干すことも考えて8時入りとなるわけです。
当時は通勤に時間がかかっていたので、8時入りのときはぼくは6時起き。
これが一ヶ月毎日です。
夜は何時に帰れるの?
これもチラシを見れば一目瞭然です。
今度は夜の部に注目です。
いた!旦那だ!!
最後から二つ目、「熊谷陣屋」に旦那が出演しています。
仮に旦那の出番が途中で終わったとしても終演後(熊谷陣屋が終わったあと)に先輩役者に御挨拶があるので、熊谷陣屋が終わるまでは旦那は帰りません。
では何時に帰れるのか。
そればかりは初日に時間表をもらうまでわかりません。
時間表は舞台稽古で芝居の時間を測ってから作るので事前にもらうというのは物理的に不可能です。
でもだいたい夜の三本目で最後が踊り(藤娘)だったら20時~21時だろうなぁ、なんてことは予想しておきます。
貴方が帰宅できるのは旦那が帰って楽屋の片付けが終わったあとです。
これも初日開くまでは予想するしかありません。
遅く考えておくと早く帰れることが分かったときに嬉しいので21時だと考えましょう(実際は21時は過ぎました)
これで朝8時入り、夜は約21時に楽屋を出れることが分かりました。
なかなかハードですが、勉強で使っているチラシは成駒屋襲名時のチラシなので橋之助さんの付き人がハードなのは当たり前です。
他にも色々読み取ろう(昼の部)
ここまでで「楽屋入り」と「楽屋を出る」時間が分かりました。
楽屋は夜の部終演後から一時間以内に出なければいけない決まりなので、旦那が夜の部の「熊谷陣屋」に出演している場合、最後に洗濯機を回すのは厳しいです。
やっぱり朝になりますね…それか間の時間。
さて、ここからが専門的な話。
実はこれ以外のことも、だいたいチラシから読み取ることができるのです。
もう一度チラシの役者欄を確認。
昼の部。
序幕の踊りが終わると次は「幡随長兵衛」まで出番がありません。
と、いうことは確実にここで「お風呂→食事」です。
余談ですが歌舞伎のお風呂は「のんびり疲れを癒す」だけではなくて「化粧を落とす」という側面もあります。
女形さんは背中まで白粉塗ってますし、立役も役によっては脚や腕まで白く塗ってます。
次の役に弊害がある場合はお風呂で落とさないといけないのです。
序幕が白塗りの踊りなので、次の出番まで空くときは一度お風呂に入るんだろうなと予想しておきます。
お風呂上がりで食事をして、幡随長兵衛の化粧開始まで何分あるのかは実際初日にならないとわかりません。
お風呂や食事の後片付けをして、特に用事がなければ貴方もここで休めるかもしれませんし、もしかしたら予想してない仕事が増えるかもしれません。
それも初日が開かないとわからないのです。
他にも色々読み取ろう(夜の部)
幡随長兵衛が終わったら次は夜の部。
「昼の部」と「夜の部」。
お客様にとっては別々のモノですが、我々にとっては両方合わせて「一日」です。
昼と夜の間に早拵えがある場合もあるので、ぼくの中では「昼の部」と「夜の部」は繋がっています。
さっそく確認しましょう。
夜の部に注目。旦那の名前を探します。
夜の部。
旦那(橋之助)は「口上」まで出番はありません。
良かった!
「幡随長兵衛」終わったら少し時間ある!
と喜ぶのも束の間。
「口上」の後、「熊谷陣屋」に旦那は出演してるのです。
二演目連続で旦那の名前があったら早拵えの合図です。
チラシから読み取る「幕間の早拵え」。
ポイントは二演目連続で名前があるかないかです。
が、必ずしもそうとは限りません。
「口上」は勿論最後まで舞台にいますが、そのあとの「熊谷陣屋」で旦那の役がいつ登場するのかどうかで忙しさが変わってきます。
幕開きから出ているのか、それとも終盤に登場するのか。
ぼくは歌舞伎演目についてはそれほど深い知識はないので、分からない場合はすぐにお弟子さんに確認します。
そして熊谷陣屋の出番が終わったら、今度は本当に一日の疲れを癒す意味でのお風呂。
これで一日が終了です!
まとめ
・まずチラシを確認!!
昼と夜、すべての演目で旦那の名前を探して、
一日の旦那の動きを予想。
朝9時半楽屋入り
↓
「宝船」終わりで食事、お風呂
↓
少し時間が空いて「幡随長兵衛」
↓
(宝船終わりではなくてここでお風呂かも)
また少し時間が空いて「口上」
↓
「口上」終わりで早拵え
↓
「熊谷陣屋」終わりでお風呂
↓
20半~21時帰宅
入り時間と出る時間はあくまでも予想です。
実際はもっと遅く入るかもしれないし、早く帰るかもしれません。
ですがチラシの段階でぼくはここまで予想を立てて、自分の行動をスケジューリングしておきます。
この場合ですと、楽屋入り前に店がやってないので買い出しをすることができません(コンビニは別)。
なので間の時間で自由に動く為にも朝のうちに洗濯を終わらせておくことが大切なのです。
付き人ってめっちゃ忙しいじゃん!!!
って思ったそこの貴方!
勉強に使ったのは襲名のチラシなので朝~夜まで仕事ですが、
基本は旦那が帰ったら帰れます。
なので昼の部だけしか出ないときはそこで帰れますし、
夜の部だけのときは夕方から歌舞伎座入りすれば大丈夫です。
それが一ヶ月毎日。
忙しい月もそうでもない月もあります。
毎月朝から夜まで働いているわけじゃないですよ!
全ては旦那次第。それが付き人です。
どうでしょうか?
ここまでしっかり読んでくれた方は、もうチラシを見る世界が変わっているはずです。
付き人シミュレーションもできるはず!
かなりの長文になりましたが、お読みいただきありがとうございました!