こんにちは、小野哲平です。
日本が世界に誇る伝統芸能『歌舞伎』。
歌舞伎の世界にはお弟子さんの他に付き人という職種が存在します。
付き人…?
知らないよね
この付き人…全く知られていません。
ネットで検索するとだいたいぼくが過去に書いた記事が登場します。
これまで数多くの付き人が働いているのに全くその実情が明らかになっていないのです。
でも歌舞伎好きの中には付き人の仕事を知りたい方もいるはず…!!
なので今日は元付き人のぼくが「歌舞伎付き人とはどういう職業なのか」を詳しく説明します。
これさえ読めば大丈夫!
ぼくの経歴は以下の通り。
●2016年10月11月、2017年1月 成駒屋襲名を成功させるべく再び付き人として働く。
襲名時はサポートスタッフだったので、実質付き人を卒業して10年近く経ちます。
なので今の歌舞伎界の状況には少々疎い部分も…。
しかしながら10年経つのに未だに情報が普及してない職種も珍しいかと…
この記事は
- 歌舞伎の世界に興味ある人
- 付き人の仕事が知りたい人
- 実際に付き人の話を打診されてる人
に読んでもらいたいです。
この記事を読んで歌舞伎の付き人業がもっと一般的に普及すればいいとぼくは思っています。
もちろん仕事なので良い面・悪い面両方持ち合わせています。
出来る限り包み隠さず書くので、付き人の仕事内容を知りたい人は細かくお読みください。
きっとあなたのチカラになれるはずです。
かなりの長文になりますが、目次で細かく分けるので気になる箇所だけ読むのも全然オッケーです。
迷ってるあなたの人生の手助けが出来れば嬉しいです!
付き人について
よく聞かれること、皆さんが疑問に思っていることについてQ&A方式でお答えしていきます。
何の為にいるの?
付き人は何の為に存在しているのか?
それは歌舞伎役者が芸に集中する為に他ならないとぼくは考えています。
歌舞伎役者はめちゃくちゃ忙しいです。
歌舞伎のチラシを見てもらえればお分かりになると思いますが、
忙しい月になると朝から夜まで一日中劇場にいます。下手すりゃほとんど舞台上にいます。
そんな忙しい歌舞伎役者をサポートする為に付き人はいます。
仕事内容は?
身の回り全般です。
細かい仕事は家(どの歌舞伎役者につくか)によって変わってきます。
共通の業務としては
- 楽屋掃除
- 洗濯物
- アイロン掛け
- 食事の用意
- お風呂の支度
- 舞台袖までの岡持ち など
があります。
料理できなくても大丈夫です!ぼくも全くできません!
お弟子さんと違うの?
ここがよく間違われるポイントです。
お弟子さんと何が違うのか。
色々ありますが誰でも分かる違いはこちら。
お弟子さんは歌舞伎役者だが付き人は歌舞伎役者ではない。
同じ一門でもお弟子さんは松竹株式会社に認められた歌舞伎役者です。
歌舞伎の舞台に立ちます。かぶき手帖にも掲載されます。
しかし付き人は舞台に立たないし、役者ではありません。
同じ楽屋で仕事をしていても
- お弟子さん=化粧や小道具の手入れ
- 付き人=水回り関係
と仕事が分担されています。
- 歌舞伎役者
- 舞台に上がる
- 専門知識を有する
- 一般人
- 舞台袖まで
- 初心者でも大丈夫
ただ歌舞伎を知らない人からすればお弟子さんも付き人も同じ認識です。
ぼくも「歌舞伎やられてたんですよね?」と一万回くらい聞かれました。笑
採用条件はあるの?
基本的には健康な方なら誰でも働けます。
年齢制限もないはずです。
女性が多い職業ですが家によっては女性の付き人はNGという場合もあります。
でも基本は女性が多いよ!
専門知識は必要?
あるに越したことはないですがそんなに詳しく歌舞伎を知らなくても大丈夫です。
仕事していくうちに覚えます。
ぼくは歌舞伎を見たことない状態で付き人になりました!
しかしながら勤務を始める前に勉強したい!という熱心な方は歌舞伎役者の名前をある程度覚えておくことをオススメします。
自分が一門になる家の幹部、お弟子さん、血縁関係を全て把握しておくとスムーズに仕事に入れます。
俳優名鑑のページで調べることができるよ!
名前を間違えるのはとっても失礼だよ!
演目は無限にあるので後々覚えていけば大丈夫です。
よく上演される演目は仕事していくうちに自然に覚えます。
休みはあるの?
歌舞伎役者は一ヶ月単位で仕事をします。
◯月 大阪
◯月 京都
のような形です。
歌舞伎興行は25日間なので初日が開いたら千秋楽まで休みは休演日のみです。
千秋楽が終わって翌日に地方入りするパターンも珍しくありません。
その場合は数ヵ月休みなしもあり得ます。
ただ仕事が一ヶ月単位なら休みも一ヶ月単位。
休みの月は丸々一ヶ月休みです。
勤務時間は?
担当する歌舞伎役者がその月にどれだけ演目に出演しているのかによります。
例えば、昼の部一本のみの出演なら付き人も昼だけの仕事で終わりです。
同じように夜の部だけなら夜だけ。
昼の部から夜の部まで何本も出演しているのなら昼~夜までです。
基本は担当する歌舞伎役者が来る前に楽屋入りして、帰宅したら仕事終了です。
雇用形態は?
これも家によって違います。
担当する歌舞伎役者の個人事務所の社員として働く場合もあれば、契約書を交わさずに口約束で働くケースもあります。
その辺は曖昧なので社会保険の有無などは面接で詳しく聞いた方がよいです。
大事なことだよ!
お給料はどれくらい?
これも家によって大きく変わるみたいです。
みたい、と断定できないのは実際に確認したことがないからです。
お金の話はしづらいよね…
あくまでもぼくの経験だけで言わせてもらえば男性の一人暮らしは問題なくできました。
ただ他の家では付き人をしながら結婚して子供を育てていた方もいたので、お金に関してはピンキリだと思います。
お金がなくては生活ができません。最初の面接で必ず聞きましょう。
あとは要交渉です。
どうやったらなれるの?
ぼくの場合は紹介です。
芝翫さんとぼくの共通の知り合いの俳優から話をいただいて「こんな機会は二度とない」と決めました。
当時ぼくの周りにいた付き人も紹介で入った方が多かったです。
ただ、紹介でしか入れないということはありません。
演劇界の最後の方に出てる求人募集に「付き人募集」と書かれている月もあります。
あとはネットで各歌舞伎役者の後援会ページを見ると募集してたりしてます。
歌舞伎界に知り合いが入れば早いかも知れませんが一般の方でも十分に働けます。
こんな人は付き人に向いている!
それはもちろん歌舞伎が好きな人でしょう。
大好きな歌舞伎に携われることを嬉しく、誇りに思える方は是非とも付き人として働いてもらいたいです。
常識がある人に限ります。当然ながら礼節に厳しい世界です。
伝統ある歌舞伎の世界で働いているということをしっかり誇りに思える方ならきっと付き人業を楽しくこなせるはずです。
付き人は技術職ではない
歌舞伎は専門の技術を持った人たちで舞台が作られています。
役者、長唄、浄瑠璃、床山、衣装など、どれもが果てしない鍛練を必要とする技術職です。
ですが付き人は違います。
付き人に特別な技術はいりません。
一生懸命真面目に働けば誰でも通用します。
なので付き人を経験するだけでは特別なスキルは身に付きません。
いいですか、もう一度言います。
付き人を経験するだけでは特別なスキルは身に付きません。
時間が経てば付き人という仕事の枠組み内での成長はしますが、それ以外のスキルは身に付きません。付かなくても成立してしまうのです。
なので歌舞伎の世界に身を置くことで体験できることを最大限生かし知識を蓄えたり、人脈を増やすなど今後の自分のプラスになることは自分からやっておくべきです。
付き人をしていて良かったこと
それはもちろん歌舞伎を知ることができたことです。
付き人にならなかったら未だに歌舞伎を鑑賞しないままだったと思います。
歌舞伎を知っているということは役者としてだけでなく日本人として誇れることです。
そしてまた、ぼくはドラマや映画の撮影現場にも同行していたので普通に生活してたら絶対に会えない芸能人の方にもたくさん会えました。お話もさせていただきました。
それらの体験はぼくの生涯忘れることのない財産です。
関連記事初めてドラマに出たときの話
付き人をしていてツラかったこと
仕事自体はハチャメチャ忙しかったですが精神的にツラいと思うことはありませんでした。
ぼくは若くして(21歳)で付き人を始めたので周りのお兄さん方が可愛がってくれて美味しいものも沢山ご馳走になりました。
ただしいて挙げるなら「歌舞伎の話題についていけないこと」ですかね。
歌舞伎界の皆さんは当然歌舞伎に超詳しいので「◯◯(演目)の◯◯(役名)」といえば話が通じて会話が進みます。
「◯◯(役名)かよ!」みたいなツッコミされてもその役名や有名な台詞もわからないので微妙なリアクションしかとれないことが切なかったです。
仕事に必要な知識はお弟子さんが教えてくれるので問題ありませんでした。
まとめ:付き人は貴重な体験である
普通の会社員と違い、歌舞伎役者の付き人を経験することは非常に珍しい経歴の持ち主になるということです。
幹部俳優ひとりにつき付き人ひとり。
幹部俳優の人数に限りがあるので付き人自体にも限りがあります。
普通に生活してなれる職業ではありません。
ずっと続けるのかどうかは人によりますが、
一度でも経験したことのある人にとっては貴重な時間だと思います。
少なくともぼくにとってはそうでした。
歌舞伎の楽屋で働いていたという事実は歌舞伎好きにとって夢のような話です。
歌舞伎好きに知り合う度に自慢できます。
言い方を変えれば、特別な人間になれるということです。
前述したように特別なスキルは身に付きませんが、あなた自身がレアな人間になれます。
そしてまた歌舞伎の世界には勉強になることが沢山あります。
そこで見聞きしたことを生かすも殺すもあなた次第です。
総じてぼくは付き人は貴重な体験ができる魅力的な仕事だと断言します。
余談:付き人の仕事は非公開にすべきか。
最後に余談。
付き人の仕事は非公開にするべきなのか。
以前ぼくが付き人の仕事をブログに書いたところ、他の家のお弟子さんから「書かないでくれ」と注意をされたことがあります。それも一度ではありません。
その理由は「付き人になる人がいなくなるから」
そのとき書いていたのは成駒屋襲名時で、ぼくはその日に実際に起きたことを書いていました。
襲名時はとても大変です。
なのでその大変さが浮き彫りになった記事を読むと、付き人希望の人が集まらなくなるのでやめてくれ、ということでした。
これがとっても歌舞伎の世界らしいとぼくは思ったのですが、結局ぼくは働いているわけです。その環境で。
それを公にしないで付き人を募集するということは忙しさを内緒にして雇っちゃうということと同義です。
で、雇ったらこき使う。
ぼくは何度も声を大にして言い続けます。
「付き人」という職業は、全て条件を開示した上でやりたいと思う人が働けばよいのです。
その方が長く働いてくれるからです。
全ての仕事においてそうです。
「誰にでもできる簡単なお仕事です」と誘い文句を出して、集まった人にめちゃくちゃ重いもの持たせて「ほら?誰にでもできるでしょ?」というのは些かグレーな求人文句です。
それよりも「重いものを運びます。体力に自信がある人来てください。お金はこれだけ払います。」の方が安心します。
その条件で働きたい人がくればいいわけです。
それで人が集まらないならその仕事に魅了がないということです。
その場合は雇い主側が知恵を絞って改善していけばいいのです。
魅力がない仕事に人は集まりません。
当たり前の話です。
この記事内で散々書いたように、ぼくは歌舞伎の付き人業に魅力がないとは思いません。
歌舞伎は付き人がいないと成り立たないです。
それを一番分かっているのは他ならぬ歌舞伎界の方々です。
で、あるならばその魅力が世間に伝わるように歌舞伎界側が意識改革をしていく必要があるのではないでしょうか。