前回の話はこちら。
記憶が曖昧だが3年の春休みか冬休みのどちらかだったと思う。
休みの最終日にNからメールがあった。
「学校って明日から?」
今思えば何てことない普通のメールなのだが、そのときのぼくはこれまでの数ヶ月に及ぶNに対する小さな苛立ちが積み重なっていて、そのメールを見たときに心の底から落胆した。
そんなこと自分で調べればいいし、そもそも知らないのはヤバいだろ、お前しっかりしろよ。そんな気持ちだったと思う。
なのでぼくは軽い気持ちで嘘をついた。
「明日は休みだよ」
「ありがとう」と返信がきたら「嘘だよ!明日からだよ!」と返すつもりだったが、そのときNからの返信はなかった。
言い訳がましく聞こえるが、返信がきたら真実を教えるつもりだったのは本当だ。
そして翌日。
Nは学校に来なかった。
クラスメイトにその話をすると、皆笑いながら「哲平がそう言ったらNは来ないよ」と口々に言った。ぼくはNに対する自分の影響力えげつないな、と思った。
責任を感じて落ち込んでいると「どう考えたってNが悪いから気にすんなよ」という空気を友人たちが作ってくれた。
休み時間に電話をして真実を告げると、Nは怒っていたがその場にいる他のクラスメイトから「いやお前が悪いだろ」とフルボッコにされて、なんとなくその話は終わった。
ぼくも謝ったし、Nもメールの返信をしなかったことを謝った。
と、ここまでで嘘の話は終わりだ。
高校生が一日学校を休んだかどうかの小さい話に聞こえただろうか。
しかし問題は最後の最後にやってくる。
Nは皆勤賞を逃した。その一日の欠席で、だ。
皆勤賞とは3年間無遅刻無欠席でもらえる名誉ある賞である。
Nは3年間でその日だけ学校を休んだ。ぼくの嘘があとになって大きな罪になったのだ。
ちなみにぼくは皆勤賞だった。なんとも罪深い。
卒業式に皆勤賞の賞状をもらった友人たちと撮った写真に、いかにも「ぼくも皆勤賞もらいました」と笑顔のNが写っているが、彼が手にしてるのは精勤賞である。
この写真を見直す度に笑えるし、この件は高校の同級生で集まるときに毎回話のネタになってひと盛り上がりするので嘘をついたこと自体はそれほど後悔してない。
その後もNとは仲良く過ごした。
ただ、あれから20年近くが経ち大人になって、あれほど慕ってくれたNに対してどうしてもっと優しく接することができなかったのだろうと思うことは多々ある。
もう戻らない時間だから愛おしく思えるのか。
そんなことを考えさせられる嘘の話。