「桃太郎の話、どう思いますか?」
突然知り合いに聞かれた。
おそらく言わんとしてることはわかる。これまで何度も何度もネタになってきた話だ。
知り合いが言う。
「あの話って結局、復讐の連鎖を引き起こすだけなんですよね」
つまり桃太郎が悪さをする鬼を懲らしめようとも、鬼の親族がまた人間の村にやってきて仕返しをするに違いない。それは根本的な解決になっていないのではないか。
と、ここまではよく聞く話。
そこでぼく。
「そもそもどうして鬼退治に行くの?」
「鬼が人間の食物や財宝を奪うからです」
「何でそうなったの?鬼の欲望が強いって話?」
「小野さん、そこなんですよ」
知り合い曰く、鬼が人間の食物・財宝を奪うことになったのは「鬼が生活苦だったからなのではないか」というのだ。
鬼ヶ島はその名通り「島」で、陸地と地続きで繋がっていない。桃太郎が船で乗り込んだことからも立証できる。つまり鬼ヶ島で鬼やその家族が生きていく為には自給自足を「鬼ヶ島内」で完結させなければいけないのだ。
島内産業がそれが上手くいかずに、家族や仲間たちに食糧が行き届かない。そこで鬼達がとった行動が隣国である人間の村からの強奪。
これは「国家経営が上手くいかない鬼達の生存を賭けた侵略の話」なのだと知り合いは主張してきた。
なるほど。
しかしいくら生活苦とは言え、他国の資源を奪っていい道理にはならない。
知り合いは繰り返す。
「つまりこれは一種の戦争なんですよ。でもやられたらやり返す、という手法を選択する限りは永遠に終わりは来ないんです。」
確かに。仮にその場にいた鬼を再起不能になるまでボコボコにして強奪された品々を取り戻そうとも、いつか鬼の仲間が仕返しにやってくる。間違いなく最初に一番ザコっぽいキジが殺される。
それを踏まえて「どう思いますか?」と知り合いが問う。
ぼくは答える。
「鬼達が生活苦で困窮しているのであれば、必要なのは「雇用」だね」
桃太郎は鬼達に「雇用」を持ち掛けるべきである。あれだけの身体だ、力持ちに違いない。なので人間の村で「人間には出来ない力仕事」をすることで、その対価として食料を渡せばいい。
仮に食料が足りなかったとしても労働人員が増えたならその分、収穫も増えるはずだ。それでも足りなければ知恵を絞ればいい。「人間とは比べ物にならない腕力」を手に入れたことで、これまで不可能だった産業が生まれるかもしれない。
そして鬼ヶ島にも人間のアドバイザーを派遣して、鬼達の島内運営をチェックする。食物の調達や分配方法で非効率・改善部分があれば、より良い方法を指摘する。
そうして「労働力」と「意見」の交換をしつつ、同盟国として生きていく道を選ぶのが良いのではなかろうか。
と、ここまでが知り合いに言われてパッと思い付いたイチ案である。
それを聞くと知り合いは満足したように頷き、次の質問をしてきた。
「じゃあどうしてイヌ、キジ、サルはきびだんごなんかで命を賭けた戦いにお供したと思いますか?」
そんな終わらない問いを投げ掛け続ける知り合いが、ぼくにはいる。