コラム(不定期更新) 怖いネカフェの話

柴咲コウみたいな顔だったらもっと違う人生だったやろね

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思考

綺麗な女性が増えた、と思います。

子供の頃、美人と呼ばれる人はみんなテレビの中にいました。

あの人は綺麗だからテレビに出れる。

みんなそう思ってたし、その考えが当たり前でした。

 

しかし昨今は街を歩いていても綺麗な女性ばかり。

あくまでも主観に過ぎませんが、女性の美しさの平均値は年々上がっています。

女優やモデル並みに綺麗な一般人も沢山います。

もはやテレビに出てる人が一番美しい時代ではないのでしょう。

 

でも…それでも…

誰にでも憧れはあります。

 
柴咲コウみたいな顔だったらもっと違う人生だったやろね

 

今でもそれを聞いたときのなんとも言葉にしがたい、

心が締め付けられるような感覚が身体に残っています。

 

それは11年前の出来事。

 

その頃ぼくは歌舞伎役者の付き人という稀有な仕事をしていました。

食事の支度や楽屋掃除など、歌舞伎役者が気分よく舞台に立つ為のお手伝いをする仕事です。

 

付き人というのは待機場所が用意されていません。

役者は無論楽屋、スタッフも劇場内に控え室もしくは作業室が用意されています。

 

しかし付き人にはありません。

楽屋前の廊下など、邪魔にならないスペースにそっと立っています。

 

その劇場には誰でも使える共有の二人掛けのベンチがありました。

文字通り一度に二人しか腰掛けることができないので付き人は各自、仕事の合間に交代でそのベンチに腰掛けて休憩を回していました。

 

その女性はある大幹部の付き人でした。

大幹部というのは簡単に説明すると凄く偉い役者で、歌舞伎界を背負って立っているような方のことです。

しかし大幹部だけあって付き人の仕事量も桁違い。

それらの仕事を慌ただしくこなしていたのがその女性です。

詳しい年齢は分かりませんが40~50代だったと思います。

 

束の間の休憩中、二人掛けのベンチで並んで座っていると、

その女性が溜め息混じりにポツリと言いました。

 

…柴咲コウって綺麗やね

 

ぼくはそれがどれだけの重みを持っているのかを溜め息から計り取ることができず、何の含みもなく極めて普通に返しました。

 

綺麗ですよね~

 

すると彼女はまた大きな溜め息をついてこう言ったのでした。

 

柴咲コウみたいな顔だったらもっと違う人生だったやろね…

 

それは若い子が喫茶店で雑誌片手に友達に言う軽い願望ではなくて、彼女が過ごしてきた長い人生から溢れ出たような言葉でした。

もしかしたら彼女は、美しい女性を見る度に傷ついていたのでは。

そう思ってしまうくらいの切望を感じました。

 

当時23歳だったぼくはその言葉への適切な返答を知りませんでした。

尤も今も正解はわかりません。

 

顔について悩むのは誰しもが通る道です。

思春期は当たり前のように容姿端麗な男女が校内の人気者

 

それに比べて自分の顔は…

何度も鏡を見ては落胆する、という経験をしたのはぼくだけではないはず。

 

社会に出ても美しい顔を持った人は、そうではない顔を持った人に比べてひとつもふたつも優位な人生を歩むことができます。

美貌による経済差を長年調査した結果をまとめた本「美貌格差」によると、見た目での生涯年収の差は2700万円と書かれています。

しかし年を重ねて経験を経て、一定の人は自分の顔に昔ほどの抵抗を持たなくなっていきます。

ぼくも30歳を過ぎてからは特に自分の生まれ持った容姿について何も思わなくなりました。

でもそれはぼくが「男性だから」なのかもしれません。
 

自分の顔が二枚目とは程遠いことを知っていたぼくは

 

ぼくもカッコよく生まれたかったですよ

 

と冗談と本気が半分ずつ入り交じった返事をしました。

するとその女性は

 

何言ってるの、哲平くんはすごく良い顔よ

 

とぼくを褒めてくれました。

 

顔を褒められたことは人生で数回しかないので、このときのことはよく覚えています。

 

ぼく自身が良いと思っていない顔を彼女が褒めてくれたのと同じで、ぼくは彼女を美しくないとは思っていませんでした。

でもぼく自身が良いと思っていないように、彼女は自分を美しいとは思っていなかったようです。

 

柴咲コウみたいな顔だったら、と思う人は星の数ほどいるでしょう。

それは知っていました。

でも柴咲コウのように美しい容姿の女性がいるという事実が誰かを傷つけているということはそのとき初めて知りました。

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