コラム(不定期更新) 怖いネカフェの話

♯66 バックレ

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「正直ここバックレ多いんで小野さんもバックれる前提で教えますね」

 

今から13年前にネットカフェでバイトを始めた初日に先輩スタッフから言われた言葉だ。

わりと衝撃だった。

 

バックレ。要するに無断欠勤をして、そのままいなくなることである。

倫理的には絶対に悪いことなのだが、バックレする人は…めちゃくちゃいる。

 

言うまでもなく、ぼくは悲しいくらい真面目な人間なのでバックレをしたことはない。勤務したばかりのバイトをやむを得ぬ事情ですぐ辞めることになっても、ちゃんとした正規の手続きで辞めてきている。

 

否、ほとんどの人間にとってそれが普通だと思う。

ちょっと勤務して「自分に合わないかも」と思ったら辞めていい権利は誰にでもある。

 

でもその「合わないんで辞めます」が言えなくて、もしくは言うのが面倒でいきなり来なくなる人は多い。実際そのネットカフェではよくいた。

 

繁華街に店舗があったので、「私たちさいきょー」みたいなノリのギャルがよく面接に来ては採用され、一週間経たずにバックレた。

初日、2日目としっかり仕事を教えても3日目にいきなり来なくなる。1ヶ月くらい働いて周りのコミュニケーションを取れてる人でも急に来なくなることがあった。無論、店からの電話など出るわけもない。

 

「バックレる人が多いからその前提で教えます」

新しいスタッフに仕事を教えるとき、冒頭の先輩スタッフの発言を気付けば自分も口にしていた。

伝承されていく文言なのかもしれない。

 

面接後に書類で契約を交わしてから勤務してるので、厳密にはバックレは何らかのペナルティがあるものだと思う。しかし店舗もどうでもいい人間を罰することに労力を割くよりも、失った戦力を新規雇用を補わなければいけないので(少なくともその店では)後追いをしていなかった。つまりノーペナルティ。

 

なので、当たり前にバックレがいた。

新人が3人いたら大体1人しか残らない。

 

更に24時間体制の店なので、1人が無断欠席すると前の時間帯で働いている人が強制的に残業することになる。残業をくらった人は各々バックレた人に怒りを感じることもあるだろうが、どうせ二度と会うこともない。

 

ただ不思議なことに、ぼくはこのバックレる人たちに対して、怒りよりも若干の憧れに近いものを感じていた。

 

どうしてそんな無責任なことができるのか。

 

今日バイトかったるいわー。

バックレよ。

 

そんなノリで簡単にルールを破れる人を羨ましく思う。ぼくには出来ない。

若気の至りとかではなくて物心がつく頃にはもうそんなことができない固い人間になっていた。

 

「メンタルの強い人は人の気持ちを考えない人」であることが多い。

 

残された従業員のことを考えず、自分が抜けて大修正しなければいけない明日以降のシフトを考えず、更には自分の次の仕事のことを考えずに、その場のノリで仕事を無断欠勤できる大胆さが到底自分にはないものとして多少なりとも眩しく見えていた。

 

ぼくは人に迷惑を掛けることができない。ゼロにすることはできないので結果的や突発的に迷惑を掛けてしまうことはあるが、結構凹む。罪悪感で苦しくなる。

 

なので時として、このバックレる人々を自分とは違う人種として羨ましく思うことがあるのだ。

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