コラム(不定期更新) 怖いネカフェの話

♯29 大河ドラマ

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大河ドラマ「青天を衝け」に出演した。

嘘ではない、あの大河ドラマである。

 

俳優を志す人間が人前で目標を語るとき、だいたいの確率で「いつか大河ドラマに出演したいです!」が登場する。それか朝ドラ。

 

様々なワークショップに参加してるので自己紹介の度にそれらの言葉を何度も聞いた。

言葉にするかは別として目指していない俳優はいないと思う。

 

深夜やBS、配信も含め、様々なドラマ枠があるが大河ドラマは別格だ。フジテレビの月9、日本テレビの水曜ドラマ、近年飛ぶ鳥を落とす勢いのTBSの日曜劇場。各局の代表枠はあれど、それらを踏まえても日本で一番凄いのは大河である。視聴率の話ではない、『格』の話だ。

 

そこには各時代の名優が築き上げた伝統と重みがズッシリ詰まっている。

 

その大河に一瞬だけ出演した。全くそんな話はなかったのに、いつの間にか話が決まった。青天の霹靂とはこのことを言うのであろう。

 

勿論ぼくのような無名俳優が役などもらえるはずもない。

役名で言えば「暴徒B」である。

 

吉沢亮さん演じる主人公の渋沢栄一が乗る馬車に襲い掛かる民衆の一人。台詞はあるものの他の暴徒の声にかき消されて際立って聞こえはしない。撮影も午前中だけで終わってしまった。現場でこそ一応キャスト扱いをされたが映像的にはほぼエキストラである。

 

だがしかし、今は大河で主たる脇役も調べれば最初は今回のぼくのような起用が多いのだ。ベテランマネージャーにも「大河ドラマに一度出ると俳優として箔が付く」と教えてもらった。

 

当然、一瞬だけ出演してその先何年も同じようなポジションにずっといる俳優も星の数だけいる。しかしその俳優たちだって、成功した俳優だって、最初に大河ドラマに出たときには思ったはずである。

 

「俺は大河ドラマに出たぞ!」と。

 

他のドラマとは訳が違う。それくらい格が違うのである。俳優であれば尚更それがわかる。

 

仮に大河に一瞬だけ出て、そのあと鳴かず飛ばずで俳優を辞めたとしても、その人の心の中には一生「俺は大河ドラマに出た!」という自信が残るはずだ。反対にほんのちよっと大河ドラマに出ただけでも犯罪を犯したら「大河俳優、捕まる」と大々的に報道され、コメント欄に「誰?」と書かれて嘲笑される。

 

これが月9や日曜劇場ではそうはいかない。

大河ドラマこそ国民的ドラマなのだ。

 

その大河ドラマに出演した。

クレジットも表示されたのでその事実はずっとNHKに残る。

 

これを読む人に凄いと思ってほしいわけではない。自分自身が凄いと思っているのだ。

 

ここからだ。自信を得て先へ進む。

これから先何度となく訪れるであろう俳優としての存在否定、激しい苦悩を「大河ドラマに出た」という自信ひとつで乗り切る。

 

ぼくは大河ドラマに出た俳優だ。

そして、また出る。きっと。

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