コラム(不定期更新) 怖いネカフェの話

♯77 副校長

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ぼくの通っていた工業高校では授業で検定を受験させられる。

 

計算技術検定と情報技術検定だ。

 

計算技術検定は文字通り計算問題。

ポケコン(ポケットコンピューター)と呼ばれる小さな電卓を使って問題に答える。

普通の数学と思ってもらって構わない。

 

情報技術検定はプログラミングに関する検定だ。

工業高校ということもあり授業で簡単なプログラム言語について学ぶのでその延長で受験させられる。

 

計算技術検定と情報技術検定。

計算は4級から、情報は3級から始まりどちらも1級まである。

 

計算の4級と3級、情報の3級は生徒は全員受験必須だった。落ちても留年になることはないが「うわぁ…あいつ落ちたのかよ」的な空気にはなる。ぶっちゃけ3級までは簡単だからだ。

 

2級以降は難易度がグッと上がるので希望者のみが受験可能、成績が良い生徒が希望していた。

 

ぼくもその1人である。

 

計算技術検定は上級になっても問題が難しくなるだけだが、情報技術検定は少し違う。

言語選択のプログラム問題に授業で習ってない言語が出てくるのだ。C言語である。

 

今はカリキュラムに含まれているのかも知れないが当時は授業では全く触れることがない初耳ワードだった。

 

このC言語。

ぼくは、副校長に教えてもらった。

 

本当は参考書を買って独学で学ぶつもりだったのだが、PTAに出入りしていた母がその話を学校でふと話題にしたらしく、そしたら「私が教えよう」と副校長が玉座から立ち上がったのだ。

 

副校長…

普通に学校に通っていて校長や副校長と接点があるのだろうか。朝礼や学期の区切りで挨拶する人、ぐらいにしか認識がなかった。

 

母親に言われるまま、皆が登校する前に学校へ行き、副校長室でC言語を学ぶ日々が始まった。

副校長はぼくに個人的に授業をするということで明らかに気合いが入っていて、初日に分厚いC言語の本を4冊くらいくれた。

 

楽しい時間だった。

二人きりなので質問もしやすく、何よりも副校長が楽しんでいるのが肌で伝わった。

 

およそ他の授業では感じ得ない感覚だった。

そしてC言語を学んだぼくはそのまま情報技技術検定の2級と1級に合格し、経済産業省の「基本情報技術者」という国家資格まで在学中に取得した。

 

あまりに資格を取りまくったので卒業式では全国工業高校協会から「優秀生徒」として表彰もされた。賞状は今も大切に保管している。

 

現在、それらを活かす仕事には就いてないが、あの時間、副校長と共に過ごした時間は楽しい日々だった。

 

時間が流れ。

数年前に副校長は亡くなった。

 

ぼくは時折、あの日々を思い出す。

副校長室でマンツーマンで授業を受けた日々はぼくだけの特別な時間だった。

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