小学生の頃、ドラクエバトルえんぴつが爆流行りした。
同世代で知らない人はいないだろう。バトえんと呼ばれ、えんぴつ一本に一体、ドラクエに登場するモンスターが描かれ、六面部分には攻撃内容が記載されている。
友達とそれぞれ一本ずつえんぴつを持ち、コロコロ転がして出た目に従い、互いのモンスターにダメージを与えつつ最終的に相手を倒した方が勝ち、という遊びができる愉快なえんぴつだ。
これ以上の説明はできないのでここまででイメージが全然湧かない人はググってほしい。
とにかくこのドラクエえんぴつが異常に流行った。ミニ四駆、ハイパーヨーヨーに匹敵するくらい流行った。正確な流行り順番は覚えてないがとにかくめちゃ流行った。
えんぴつの上部には●や★が刻印されていて、「●に20のダメージ!」なら●のモンスターだけが攻撃をくらう。★だけがくらうときもあれば全体攻撃もある。ちなみに●のモンスターは通称マルモン。★のモンスターはホシモンとぼくらは呼んでいた。
このドラクエえんぴつの良いところは、えんぴつ一本持ってれば、いつでもどこでも遊べることだ。
休み時間になる度に集まって皆で戦い合った。攻撃順番さえ守れば同時に複数人で戦うこともできるし、ダメージの計算は頭の中でするので暗算の練習にもなった。
勿論えんぴつなので削れば普通の筆記具としても使えるのだが、えんぴつが短くなるほど面に書いてある攻撃内容が読めなくなるのでほとんどの子供が削らずに遊びの為だけに保管していた。
更に筆記具と言えば筆記具なので筆箱にも入る。トランプやゲームボーイと違って「学校に持ち込んではいけないもの」ではないのだ。
全く良く出来たおもちゃである。考えた人は天才かモンスターのどちらかであろう。
更にドラクエのモンスターの数だけ新作を作れるのでその種類は豊富。ぼくも全盛期は20本以上持っていた。
竜王などのボスシリーズも発売されて、ボスだけに普通のえんぴつの2倍くらい太いえんぴつだった。値段も高く、えんぴつ削り器にも入らないし、こいつはさすがにやりすぎだろと幼ながらに欲に溺れた大人を愚かに思ったものである。
ある日ぼくは従来のドラクエえんぴつに紙を被せ、六面を丁寧に折って面部分に自分が考えた攻撃内容を書けば「オリジナルのドラクエえんぴつ」が作れてしまうことに気付いた。自分だけの最強のえんぴつ。当然モンスターもオリジナルだ。
しかし何故か、そこでぼくが作ったのは桜木花道だった。
そう、スラムダンクの主人公。
赤毛の桜木花道である。超人的な身体能力を持つがモンスターではない。人間だ。
えんぴつを覆いかぶせるサイズに切った紙に桜木花道の絵と攻撃内容を書いて、丁寧に折り被せてセロハンテープで止めた。
桜木花道のドラクエえんぴつの完成である。
攻撃内容はリバウンドやレイアップシュート、スラムダンクである。あくまでも「花道はバスケットマンだから」とぼくはバスケルールで花道を戦わせた。
炎を吐くドラゴンや、竜巻を起こす魔法使い、鉄球や斧で襲い掛かってくるモンスターに桜木花道はバスケットボールひとつで挑むのだ。もはや闘技場で熊と闘わされてる罪人である。
「レイアップシュート ●に30のダメージ!」や「リバウンドに成功 もう一回振る」などの一体どういうことなのか分からない戦い方でぼくの花道はバスケットボール片手に日々モンスターと戦い続けた。ぼくが花道ならもう殺してくれと何度も懇願したであろう。
爆流行りしたドラクエえんぴつ。あんなに沢山持っていたのに引っ越しを繰り返すうちに全部どこかいってしまった。
ただ、赤毛のバスケットマンをモンスターと戦わせ続けた暴君の日々は永遠に忘れることはないだろう。