こんにちは、小野哲平です。
以前「付き人時代に出会った名優たち」と題して10年ほど前の歌舞伎との思い出を綴りましたところ想像以上に反響がありました。
ぼくが付き人時代(2007~2009)に出会った歌舞伎役者との思い出を書きました。10年前のことが昨日のように思い出せます。歌舞伎役者は本当にかっこいいです。かっこいい人たちに囲まれたあの頃は青春時代でした。https://t.co/5dCdLW4eyb
— 小野哲平@孤独な俳優ブロガー (@yen_town1014) April 6, 2020
なので今回はその続き。
前回に引き続き、読みやすいように役者ごとに分類して思い出をお話しようと思います。
ぼくが一生懸命働いていたこと。
そこで見聞きしたものがまさか10年後に歌舞伎ファンを喜ばせるとは…
当時のぼくに教えてあげたいです。
無駄じゃないよって。
前回も記述しましたが、付き人は幹部俳優と気軽に話ができる立場ではありません。
なので交流した思い出よりも「付き人の立場から見た名優」という形で読み進めていただけると幸いです。
付き人って何?という方はこちらをどうぞ!
付き人歴は以下の通り。
- 八代目中村芝翫(当時橋之助)付き人
- 2007年~2009年(三年間)
- 2016年10・11月、2017年1月 成駒屋襲名の為一時復帰
四代目 中村雀右衛門
京屋の旦那。
当代ではありません。先代です。
歌舞伎史に残る名女形として知られてますが、
ぼくが付き人を務めている頃は既に第一線を退いていました。
2008年2月歌舞伎座。
その月は口上だけ出演されていて、歌舞伎座一階奥の大幹部の楽屋に入ってました。
そのとき旦那は87歳。
お弟子さんに支えられて楽屋を出て、ゆっくり、ゆっくりと舞台に向かって廊下を歩いていました。
邪魔になってはいけないとぼくが道を譲ると、片手を顔の横にあげて(ありがとう)というジェスチャーをして舞台に向かわれました。
もう歩くのも辛そうに見えました。
歌舞伎役者は文字通り死ぬまで舞台に立ち続ける宿命なのだと、その後ろ姿を見て思ったものです。
歴史とすれ違った貴重な時間でした。
十二代目 市川團十郎
歌舞伎で最も格式が高い名跡「市川團十郎」
イマイチ凄さがわからないという方にはいつもこのように説明をしています。
このAKB48センター理論で説明すると歌舞伎を知らない人も「團十郎の大きさ」を理解してくれます。
そんな歌舞伎の象徴、市川團十郎。
ぼくが付き人を務めていた時代には十二代目が舞台に立っていました。
ぼくが初めて同座したのは2009年1月。国立劇場。
このときの團十郎さんは白血病の骨髄移植を経て半年振りの歌舞伎復帰。
演目は歌舞伎十八番の「象引」です。
舞台上で團十郎さんが一礼して「半年振りのお目見えにござりますれど」というと客席がドッと沸いて次の台詞が全く聞こえないくらいの拍手が連日鳴り響いてました。
これが成田屋…これが團十郎…
舞台袖で圧倒されました。
当時の台本です
あの復活の歴史的瞬間。
同じ座組にいたことを誇らしく思います。
五代目 坂東玉三郎
現代歌舞伎の女形最高峰、玉三郎さん。
ぼくが働いている頃から確固たる地位に君臨していました。
付き人から見る玉三郎さんの不思議なところは…
全然姿を見ない。
同じ劇場で一ヶ月働いているのにほぼお姿を見掛けません。
あれ?玉三郎さんて空想上の人なの?
と思うほどです。
基本的に
- 楽屋入り
- 舞台への往復
- 帰宅
この三つ以外は基本的に楽屋にいらして出歩かない印象です。
出歩かない役者でも芝翫さん(当時橋之助)の楽屋に挨拶に来れば、そこにはぼくがいるので毎日会います。
しかし歌舞伎は自分より先輩役者の楽屋に挨拶に行く通例なので、玉三郎さんが芝翫さんの楽屋に挨拶に来ることはありません。
芝翫さんが玉三郎さんの楽屋に挨拶に行くときは、同行した付き人は楽屋前で待っています。
だから全く姿を見掛けないのです。
しかし初日と千穐楽は特別。全幹部俳優が全楽屋に挨拶に回ります。
丸一ヶ月会わなくて千穐楽に「おめでとうございます」と玉三郎さんが芝翫さんの楽屋を訪れたときは
わ!本当にいたんだ!!
と軽く驚きます。
同じ座組で同じ劇場で働いているのに、その姿をお見掛けすると嬉しくなるのが玉三郎さんです。
神々しいです。
一度神谷町の旦那(七代目中村芝翫)と楽しそうにお話されてる姿を拝見して
あああ…天上人の会話だ…
とめっちゃテンション上がりました。笑
エピソードがひとつ。
舞台稽古中、ぼくが舞台裏に行かなければならない用事(芝翫さんが一度袖に引っ込んだときに飲み物を渡したりする仕事)があり歩いていると、舞台裏で私服姿の玉三郎さんが稽古を見学していました。
真剣な顔つき。
見学してる玉三郎さんの前を通るわけにはいかない…
まだ引っ込みまで時間があったので視界に入らないところで待機してると玉三郎さんがこちらに気付き微笑んで、
(あら?通っていいのよ)とジェスチャーをして下さいました。
ぼくは深く頭を下げ、歩行できるギリギリまでちっちゃくなって前を通らせていただきました。
このときの玉三郎さんの笑顔は今でも覚えています。
だってその笑顔は誰でもないぼくだけに向けられたものだから(圧倒的自慢)
六代目 片岡愛之助
初めてお会いしたのは南座。
その頃は今みたいにドラマに引っ張りだこの全国区の役者ではなくて、関西で人気の歌舞伎役者という感じでした。
ほくの印象は「優しい関西弁の兄ちゃん」。
皆さんご存知なのでわざわざ書くことでもないのですが愛之助さんは歌舞伎の生まれではありません。工場を営む一般家庭の出です。
秀太郎さんの養子なので勿論幹部なのですが、この「歌舞伎の生まれか否か」というのは端から見てるとすぐにわかるものです。
愛之助さんしかり、澤瀉屋の猿弥さんや新派の喜多村緑郎さん(当時市川段治郎)など、歌舞伎の生まれじゃなくて今の地位まで登り詰めた方は皆、現在の地位に関係なくとっても礼儀正しいです。
それは誰に対しても。ぼくみたいな付き人にもしっかり敬語で話してくれます。
一方、歌舞伎の生まれの人は、自分が歌舞伎の人間という意識が強いのかそういう教育なのか血がそうさせるのか、親しげに話していてもどこか一般家庭の人とは違うぞという意思が言葉や態度に見え隠れします。
そういう意味で愛之助さんは本当に仲良く話してくれる優しい方でした。
あと単純に二枚目ですよね。
カッコいいです。好きです。
真田丸最高でした!
六代目 中村勘九郎
ぼくが付き人をしていた当時(2007~2009年)、勘九郎さん(当時勘太郎)七之助さん御兄弟とは年がら年中一緒でした。
コクーン、中村座、納涼歌舞伎…
次々に大役に挑戦する御兄弟を見てきました。
年齢はぼくの二つ上が七之助さん、その二つ上が勘九郎さん。
歌舞伎御曹司と付き人。
比べようのない環境格差の中。死ぬほど俳優になりたかったぼくは同世代であるこのお二方の成長をどこか悔しい気持ちで眺めていました。
お二方は時間と経験と共に上昇していくグラフ。
ぼくはこの仕事をしている限りどこまでも続く平行線。
とても歯痒かったですね。
2008年10月の平成中村座。
このときは仮名手本忠臣蔵の通しをAプロ~Dプロという4種類の狂言立てで上演。
中でもDプロは「中村勘太郎奮闘公演」と題してもいいくらい勘九郎さんが忙しい配役でした。
勘平を務めてからの平右衛門なので、舞台裏は大忙し。
早拵えで一瞬しかトイレに行く時間(しかも走って)もなく、
トイレも勘九郎さんの為に空けておかないといけないくらいでした。
休憩中もノドがツラそうでずっと吸入器を口に当てていた姿をよく覚えています。
勘九郎さんに限らずこの月の楽屋は野戦病院かと思うくらい役者が疲弊していました。
忠臣蔵の緊張感は他の演目とは桁違いでその心労は計り知れません。
それを一日中、朝から夜まで何役も務めて休演日なし。
めちゃくちゃな世界だな…と思ってました。
ぼくもこの月は6時に起きて22時に帰宅する生活を一ヶ月続けました。
通勤時と帰宅時は電車内で気絶してるので、目覚めたときにこれが行きの電車か帰りの電車か分からなくなるほどでした。
あれ?これから仕事だっけ?今帰ってるんだっけ?
みたいな感じです。
話は逸れますが「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで」でやってた笑福亭笑瓶さんの「ショウヘイヘーイ」というフレーズを覚えてますか?抑揚を付けてショウヘイヘーイ♬という単語を連発するネタです。
知らない人はググろう!
どこの劇場か覚えてませんが何故か勘九郎さんがぼくを見つける度に
テッペイペーイ!!(太い声)
と呼ぶのが急に始まりました。汗
ぼくは上手なリアクションを取れないので毎回苦笑いでスルーするんですけど…
あの人ぜっんぜんやめないの!笑
会う度に「テッペイペーイ!!(太い声)」で呼ばれ続けました。
で、毎回呼んだあとに謎に満足そうな顔するんですよね( ゚Д゚)シツコイ
これ何日間か続いた思い出が…
そんな勘九郎さんも今ではお子様もおられる中村屋の大看板。
一度一度の舞台に魂を掛ける姿は心から尊敬します。
そんな方にいじっていただけたことを誇りに思います。
テッペイペーイ!!( ´ ▽ ` )ノ
最後に
今回もお読みくださりありがとうございます。
また反響があり、尚且つ記憶の片隅にある思い出を叩き起こすことができれば続きを書きたいと思います。
坊ちゃん方はわりと覚えてますね。隼人さんなんて当時から超イケメンでした。
初めて会ったとき驚きましたよ…
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