前回の話はこちら。
このままドアの調子が悪くなると、誰もマンションに出入りできなくなる恐れがあるので、ぼくは状況を報告しようと管理会社に電話した。
「もしもし」
「あ、○○に住んでる小野です」
ドアの不調は少し前からなので、もしかしたらぼくより先に電話してる住人がいるかと思ったが、そんなことはなく、管理会社もその電話で初めてその状況を知ったとのこと。
「電池ですかねぇ」と呑気な声が返ってくる。
この感じじゃ多分定期メンテナンスもしてないんだろうなぁ、と思う。
「オートロックに関しては専門業者の管轄なので、そこに伝えておきます」という話になったので、こちらとしては「早く直れば何でもいい」という要望を伝えた。
そのドアが開かないと、マンションからの脱出は完全に不可能になる。建物内で火災があれば全員死ぬし、そもそもマンションから出れないって相当な問題じゃねぇのか、家賃払ってるんだからそっちのサービスの問題だろ、と思ったが、そこはグッと言葉を呑み込む。
どこか他人事のような返答に呆れはしつつも、揉めても仕方ないのでとりあえずは任せることにした。こちらで出来ることはそれしかないのだ。
念の為、手動で開けられるように暗証番号を聞いておく。「絶対に誰にも教えないでください」と言われたが、そもそも住人に教えてない時点で意味がわからぬ。過去によほど凄いクレームがあったのであろう。いつの日も声が大きい者へルールは傾く。
その日は夕方前に帰宅した。
マンション入口でカードを掲げる。
やはり反応が悪い。何度かガチャガチャやった後に施錠解除される。
しかし管理会社が業者に連絡すると言ってたので、さすがに近日中には直るであろう。
予定よりも早く家に帰れたので、洗濯をしようと思った。
ぼくは部屋に洗濯機はなく、マンションの一階がコインランドリーになっている。
建物は同じだが、コインランドリーは近隣住民が誰でも使えるよう道路に面した入口になっているので、利用時は一度マンションの外に出ることになる。
つまりまた、例のドアを通るのだ。
洗濯物と財布を持ってコインランドリーへ。
そのときは難なく外に出れたのでお金を投入して洗濯開始。
30分後に乾燥機に移し替えるまで時間が空くので一度帰宅。
そのときも難なくロックを解除したのは覚えてる。
30分後、今度は財布だけを持って外へ。
いつものように違和感はあるが、何度かドアをずらしてロックを解除。無事ランドリーに辿り着く。
洗濯物を取り出して、乾燥機へ。
お金を投入してスタート。
乾燥も30分かかるので一度帰宅して30分後にまた戻る。
面倒っちゃ面倒だが、いつものことなので慣れている。
ドアの前。
家に戻ろうとカードキーをかざす。
無反応。
またか、と思い再度かかげる。
無反応。
全く反応しないので暗証番号を打ち込む。
無反応。
そもそも番号を押すときにピッと音が鳴らない。
しばらくガチャガチャやる。
無反応。
自宅スタイルのジャージ姿。
財布はあるがスマホはない。
12月の夕方。
ぼくは家に帰れなくなった。
続く。