前回はこちら。
ジャージ姿に素足にサンダル。オートロック業者の電話番号が書かれた紙を握りしめて、ぼくはヨチヨチと駅前の交番に向かった。
まさか家に入れないなんて…起きたときはいつもと変わらない朝だったのに、人生は常に何が起きるかわからないものである。
交番に着いたぼくはお巡りさんに事情を事細かに説明した。幸い財布は持っていたので免許証で本人&住所確認はできる。冬にサンダルだが決して怪しい者ではない。
「あ〜電話の貸し出しできないんですよ」
あいーん。
安西先生、試合終了です。
「でも、警察から先方に電話することは可能ですよ」
安西先生、試合再開です。
なのでお巡りさんからオートロック会社に電話をしてもらうことにした。
受話器に向かって「もしもし、警視庁〇〇署の〇〇と申しますが」と言ってるので、あっちからすればかなり驚くだろうな、まるで事件みたいだ、と思った。否、これは事件である。
電話を切ったお巡りさんがぼくに言う。
「先方が小野さんと直接話さないと分からないと言うので、話してもらっていいですか?」
お、おう…。まぁそうなるよね。
別に傷害事件とかじゃないので犯人と話すのに抵抗はない。
さっきお巡りさんが使った電話とは別の電話からもう一度電話を掛け(色々ルールがあるみたい)、お巡りさんが取り次いでぼくが電話口に出た。事細かに事情を説明する。
ここで衝撃の事実。
端的に言うと「オートロック会社が即座にできることは何もない」のだ。うそぉん。
てっきりぼくは鍵の110番的な人が来てドアを直してくれると勝手に思ってたのが、そんなことは一切なく「リセットボタンがあると思うのでそれを押してみてください」と言われた。
リセットボタン?そんなのあったか?
まぁそれで直るなら別に構わないのだが、念の為気になることを聞いておく。
「今回みたいに突発的にドアが開かなくなったときって普段どうやって対応してるんですか?入口封鎖されたら住人全員家に帰れないですよね?もしもマンション内で火事が起きたら誰も脱出できないじゃないですか?そしたら終わりってことですか?責任問題になりません?」
↑を笑いを交えて微笑ましく、やんわりと、やーんわりと聞いたのだが、電話越しの女性が完全にクレーム客を相手にするような口調&雰囲気になったので、すぐにやめた。
対応の確認をしただけで〇〇ハラスメントにされてしまう世の中だ。特にぼくは話し方が理詰めなのでクレーマーっぽく聞こえてしまう節がある。困ったもんだ。
とりあえずリセットボタンを押せばいいと教わり電話を切り、お巡りさんに深々と頭を下げて交番を後にした。
リセットボタンで直るのか、そうかそうか。
今頃入り口にはマンションに入れなくて困った住人が集まっているかもしれない。
ドアが自然に直ってることが一番好ましいが、そうすると最初からぼくが嘘ついていちゃもんつけただけみたいになるから、そこそこ他の住人も困っててほしい。
いや、困っててくれ。
ぼくはヨチヨチとサンダルでマンションに戻った。
続く。