痩せているのがずっとコンプレックスだった。
太っている子が直接的に『デブ』とからかわれるように、痩せている子も『ガリガリ』と同級生からバカにされる。ぼくも痩せていることを指摘されることが多かった。昔の写真を見てもおそろしく細い。マッチ棒だ。
大食漢ではないが少食というわけでもなかったので、完全に体質の問題だったと思う。
30代に入るまではずっと痩せていた。お酒を覚えて暴飲暴食を繰り返しても全く太ることはなかった。何をしてもずっと痩せていた。
さすがに大人になると身体が細いことでからかわれることはなくなるので、昔よりはそのことを気にする回数は減った。痩せているのがコンプレックスと告げると、年上の男性たちは「全然大丈夫。年取れば普通に太るよ」と教えてくれた。
そして今、30代後半戦、37歳になる歳。
普通に太ってきた。笑
何の前触れもなく、普通に太ってきた。
歳を重ねて食欲が減ってきているのに、3食しっかり食べていないのに、我が肉体は地味に膨らみ続けている。
正直何もしていない。時間の経過のみだ。
身体を厚くしたくて毎日筋トレをしていた頃も、細いと言われるのが悔しくて無理やり沢山食べていた頃も全然太れなかったのに、何も求めなくなったら普通に太ってきた。
それでも身体の線は細いままなので端から見れば細い人から知れない。
しかし自分の身体だからわかる。
私は今、太ってきている。
南の一つ星を見上げて誓える。
そしてそれは悪いことではない。
ぼくの知り合いに同じように何をしても太れない男がいる。
ぼく以上に痩せていて、わざわざ言葉にせずとも彼がそのことを気にしているのはよく分かる。
そんな彼にふと「最近太ってきたんだよね」と伝えると満面の笑みで「おめでとうございます!」と返された。
太ったことに対して祝福するのは不思議な光景かも知れない。
場合によっては失礼な返しに見えるかも知れない。
しかし我々にとっては『細い』ということは大きな大きなコンプレックスだったのだ(今も多少は)。
だから太ったら「おめでとう!」で間違いない。
皮肉でも捻りでもなく純粋に相手を祝う気持ちから出る言葉だ。
ぼくは今太ってきている。
人前に出る仕事をしてるので必要以上に膨れてしまったら調整するつもりだが、人生初の太る経験を今は心から噛み締めていたい。