コラム(不定期更新) 怖いネカフェの話

♯68 守衛さん

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前回の部室に続いて再び学生時代の話。

 

大学キャンパスの入口に、学内の見廻りをする守衛さんが待機している小さな建物があった。

 

部室の鍵はそこで管理されていて、部室を開けるときと帰宅時は毎回守衛さんと顔を合わせて名簿に名前を書き、鍵を受け取り・返却することになる。

日毎の鍵の返却は必須なので部室を使う学生は皆、守衛さんと顔馴染みだった。

 

交代で勤務していたので述べ3人〜5人いた守衛さんだったが、その中の一人と親しくなった。

 

当時で40代後半くらいの男性だろうか。20歳前後から見る40代の男性はとても大人に見えた。優しいおじさんで、毎回「こんにちは」とか「おはようございます」とか挨拶を笑顔で交わしていくうちに少しずつ話すようになった。

 

何がキッカケだったのかよく覚えてないが、その守衛さんがぼくが在籍していた演劇サークルに興味を持ってくれて、とある日に学内で行われている公演を観に来てくれた。

 

大学の施設を借りて行う公演なので守衛室からは歩いて2分くらいの場所だ。

 

当時のぼくらは正しい演劇など全く知らずに、それなら強い個性を持った独自路線かと思いきやそうでもなく、端的に言うと全く面白くない作品を作っていた。

今はもう恐ろしくて映像を見返すことすらできない。

 

ちゃんと指導の行き届いてる高校演劇の方が比べるまでもなく遥かに完成度が高い。

理系大学の演劇サークル、特にぼくがいたところなどはどこまで行っても素人集団だった。

 

面白くないから当然客席も寂しい。

だいたい1公演に客が5人くらい。

二桁いったら万々歳。

その少ない客も演者の友達である。

 

つまりは立派な部室をもらって活動していても、学内の誰もが見向きもしない団体だったのだ。

 

そんな公演を守衛さんが観に来てくれた。

これはぼくの中では結構な出来事で、とても嬉しかったのを覚えてる。

 

終わったあとの客出しでもいつも通りニコニコして「面白かったよー」と声を掛けてくれた。

 

優しい人だった。

 

身近な人間よりも、こういう程よい距離感の人の優しさのが妙に記憶に残っていたりする。

ぼくの学部は3年生から違うキャンパスに移るのでその守衛さんと親しくしていたのはほんの僅かな時間である。お別れの言葉もないままキャンパスを移動し、そのまま卒業した。

 

言ってしまえば、会えば話すけどそれ以上の関係ではなかった。

 

あの守衛さんは今はどうしているのだろうか。名前すら覚えていない。

あれから15年以上経つのでもう大学には勤務していないだろうが、叶うことならもう一度会いたいなとほんのり思っている。

 

あのときは見てくれてありがとう。ぼく、役者になりました。

それだけでも伝えたい。

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