創作小説 月詠人 (1)
あの日の誓いは夢幻であったか。

導かれるように出会い、
互いに落ちた恋の社はいつ久しく季節が巡ろうとも、
無限であると疑ってはいなかった。

男はひとり、空を見上げる。

かつて男が愛した女は、
権力に見初められ育った村を離れていった。

「共に暮らそうぞ」

秘めた想いはついぞ言の葉に乗ることはなく、
果ての見えぬ空虚へと沈んだ。

身の丈の違う想いと身を引き、
溢れる言葉を飲み込んだ。

振り返りし女の顔は、
男の言葉を待っていたかに見えた。

何度も歯を食い縛り己の弱さに泣いた。


男は今日も夜空を見上げる。
伝えられぬ想いを静かに燃え滾らせ。

せめて同じ月を見ているならば。
この碧い月を見ているならば。


出会うたことへの憎悪はない。
この絶望と愛を永遠に知らずに生きることを恥じる。


想い届くわけではない。

ただ同じ月を見ているならば。
この碧い月を見えいるならば。

男はひとり、空を見上げる。


まるで月詠人の如く。